男のパパ活 いよいよ大金を稼ぐオレたち
一転して深刻なムードになり、おれは缶の底にわずかに残っていたビールを逆さにして残りの1滴まで飲み干した。
先輩、ややこい話ならビール足りしませんよ。買いに行ってきます。
そうやな。いくか。
こんな神妙な顔の先輩をおれは見たことがなかった。一体何が起こっているんや。コロナの間に先輩に何が起こったんや。はよ言うて欲しい。夜道を並んで歩きながら、おれは何度も聞きたい衝動を飲み込んだ。すっと言える話ならとっくに言っているはずなのだ。
おれは先輩の左手を自分の右手で握った。先輩は驚きもせず、ふん、て鼻で笑い、ニヤッと斜め目線でおれを見た。その時おれは女には絶対しないことをした。先輩の肩から背中に左手を回し、ポンポンと叩いて再び前を向いて歩き始めた。先輩。奥村はここにいます。
コンビニで5本ずつ合計10本ビールを買った。レジを抜けてすぐに、おれたちは1本ずつ、栓を抜いた。
プシュ!!!
ちーっす!
言うわ。父親の会社がな、、。
そうきたか。やっぱり、とも思った。西田と同じパターンか。それにしてもコロナ倒産多すぎやろ。おれの周りだけでもふたりもおる。まだまだ出そうや。
やばいんすか。
ん。まあな。父親は畳んでもええとか言うてるんやけどな。
先輩は継がないんすか。
んー正直、もっと先の話やと思っとったんや。甘く見とったわ。
わかりました、なんぼ必要なんすか。
5000万や。
負債抱えとるってことすか。
先輩は一気に飲み干した缶をバリバリっと握り潰し、すかさず次の缶の栓を引き抜いた。
プシュ!!
おれらの間の沈鬱なムードとは裏腹の爽快な音。地球はそれでも回っているって誰の言葉やったっけ。先輩はそのまま黙り込んでしまった。わかるわ。さすがや。ほんまに。
5000万、今持ってますよ、おれ。
マジで?
はい、まあちょっとたくさん出してくれる客捕まえたんで。あるものを売って、もらいました。
あるものってなんや。薬か。
アホすか。笑 おれが薬どないして製造するんすか。そんな技術も頭もないっすよ。先輩がいちばんよう知ってるやないですか。おれにあるもんと言えば、、、
筋肉か。
外れ。筋肉も売ってますけどね、筋肉ちゃいますよ。もっと頭柔らかくせんと当たらんと思います。世の中には意外なもんに意外な金額払う金持ちようさんおりますよって。
奥村、その金を貸してくれとおれは言わへんぞ。
わかってます。
よかった。それならええ。
そんな失礼なこと考えるわけないでしょ。何年の付き合いやと思ってるんすか。それこそおれをみくびらんといてください。
せやな、悪かった。
ええんすよ。のっぴきならへん時には、こんくらい誰でもやらかしますよ。それより、おれを選んでくれた先輩にお礼、言うと来ますわ。
お前を?
そうですやん。こんなん先輩絶対言われへん人でしょ。よう言うてくれました。こんなクソ後輩に自分の弱み見せなあかんなん、相当キツかったでしょ。後輩の分際で生意気に「裸んなれ」言われても文句ひとつ言わず脱ぎよった。おれにあんだけ体いじくられてもブチ切れるどころか、逆におれに甘えてくれよった。全部わかってます。腹括ってここまで来てくれたんやて。おれ必ずこたえますよ。感謝してます。
お前、こんな男やったっけ。もっとチャラチャラしたアホやとおもっとったわ。パパ活て頭もようなるんか。
あ!!あかん!忘れてました!!
な、何をや。
ボス!あっこの、アジトの持ち主のボスっすわ。今から会いましょ。先輩大好きなタイプすわ。