男のパパ活 西田はおれの大事な後輩
翌朝一番で西田が戻ってきた。水道橋の改札で待つおれに西田は駆け寄り、抱きついてきた。
先輩。会いたかったっす!!
西田、おれも会いたかった、大変だったな。でももう心配すんな。
わかりました!おれ、捨ててきました。先輩に言われた通り。
よし。それでこそ西田だ。高校ジャパン候補は伊達じゃねーな。
それやめてください。過去の話っす。あそこが自分のピークじゃないんで。
お。言ったな。
もちろんっすよ!おれはほんの一瞬でもラグビーを自分から手放そうとした大バカ者っすからね。心入れ替えてきました。もう絶対自分から手放したりしないと心に決めたっす。
よっしゃ、じゃまずはアジトへ案内する。
なんかワクワクしますね、アジトとか、先輩おれの知らないとこでめっちゃ面白いことしてたんすね。コロナでこんな風になって、初めて先輩とちゃんと向き合えてる気がします。
あ、それおれも思った。コロナになる前は、おれ寮にいても誰のこともちゃんと見てなかったって、ついこないだ気づいたばっかだ。
先輩がおれの先輩でよかった。こんな力になってもらえるなんて思ってなかったおれはどんだけ自分勝手でクソ野郎なんだって。なんでおれは先輩をもっと信用してなかったんだろって昨日の夜泣きました。
西田、、。
白山通りを並んで歩きながら、おれはラグビー人生10年目にして初めて、こんな風にチームメイトと肩を並べゆっくり歩いていることに気づいた。ただなんとなくみんなとわちゃわちゃ歩くことは何百回とあったけれど、たった一人とそいつの気持ちを思いやりながら歩くことなど一度もなかった。
西田、真面目に言うけど、おれ今お前と手を繋ぎたいと思ってる。
自分も!っす!
西田はぱあっと笑顔を咲かせ、躊躇せず右手でおれの左手を握った。白山通りの歩道で、でっかい男二人が手を繋いで歩く。コロナ渦中とはいえ、爽快な気分だった。
しばらく歩いているうち、おれは歩幅を西田に寄せ、繋いだ手を一瞬離し、西田の肩に腕をまわした。スクラムみたいに互いに肩を組むじゃなく、おれが西田の肩を抱くという格好で歩き始めた。でっかいふたりが肩をこうして歩くというのはなかなか難しい。体や太ももがいちいちぶつかり、歩けたもんじゃない。
大丈夫か。
平気っす。呼吸合わせたらうまく歩けると思って歩いてます。もう少し待ってください。
さすが、高校日本代表、、、心の中でおれが呟いたのは、やはりこいつも、誰かと呼吸を合わせ色んなパスを放ったり受けたりするのが好きな男なんだということを感じたからだ。最初はうまくいかなくても根気よく続けていけば必ずうまくやれるようになることをちゃんと知っている男だ。
結局おれと西田は2キロ弱の道のりを肩を組み組まれた状態で歩き切った。ラスト500メートルくらいは体や足がぶつかることもほとんどなく、くだらない話をしながら顔を寄せ合うようにして歩いた。こいつの目ってこんなに澄んでたっけ。不思議なことに、次から次へと西田の良いところばかりが目に飛び込んできた。